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皮膚とこころの狭間で

皮膚疾患という一見すれば表面的な身体疾患にも、心理的深層からのサポートが必要で、ときには治療の鍵となることもある。
特に、難治性であるほど病状のみならず広い視野を持って治療を行うことが求められる。

患者に向き合った治療の手

【久保】 アレルギー疾患に心理的な因子が関与することは、古くは約2,000年余りも前に、「喘息発作の出現に怒りや敵意などの感情が関与している」とヒポクラテスが指摘しています。また、心身医学を学ぶ際、最初に参考にするアレキサンダーの本に、心身症が関与している七つの代表的な疾患(Seven Holy Disease)が挙げられていますが、その中に喘息とアトピー性皮膚炎が入っています。疫学的にもストレスとアレルギー性疾患は関係があり、以前からアレルギー疾患と心理的因子は強く関与していることが指摘されています1)。今日は、古江先生と私で「皮膚とこころの狭間で」と題して対談したいと思います。

アレキサンダー(Franz Alexander)が1939年に発表した七つの古典的心身症 : 十二指腸潰瘍,潰瘍性大腸炎,本態性高血圧,気管支喘息,関節リウマチ,アトピー性皮膚炎(神経性皮膚炎),甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症)

皮膚科から心療内科へ紹介するタイミング

【久保】 心療内科には、皮膚科の先生が診療し、「どうも心理的な因子が関与している」と考えられた患者さんが紹介されてきます。どのようなときに心療内科を紹介されるのでしょうか。

久保 千春 先生

【古江】 たとえば、「痛みや痒みのある皮膚症状」と言っても、見た目の皮膚症状と、患者さんの自覚症状の大きく二つに分かれると思います。患者さんは、皮膚症状の見た目に心理的なストレスをとても感じやすく、日常生活で症状を人に見られ、評価されることを気にされます。フケが服についたり、赤みがあれば人から「どうしたの?」と聞かれたりすることもあり、見た目と会話の社会的なストレスがあります。次に自覚症状ですが、痒みは、ほかの臓器になく、皮膚に特有な自覚症状になります。痒みは痛みに比べると、あまりたいしたことはないと思われがちですが、実際に問題となる皮膚疾患の痒みは急性ではなく慢性的なものです。痛みが、瞬間的であれば我慢できても、慢性になると非常に辛くなるのと同じように、痒みも慢性になりますと、痛み以上にとても我慢し辛くなります。特にアトピー性皮膚炎や慢性の蕁麻疹など、非常に長期にわたり、その痒みが強い状態の場合、睡眠障害が起こり、精神的にも激しいストレスになっていきます。このように皮膚疾患は、整容的なストレス、人と接するときの社会的なストレスがあって、さらに痛みや痒みという自覚的なストレスが加わることで、実にさまざまな階層を持ったストレスを患者さんに与えます。皮膚科医は、患者さんのストレスに悩むことが多く、心療内科的な側面がとても大きい分野だと思います。

【久保】 皮膚科では基本的には薬物療法が主体となるのでしょうが、心理的な因子が関係するアトピー性皮膚炎や蕁麻疹などの場合は、通常の薬物療法でもなかなか治らないことがあるのですね。今では重症なアトピー性皮膚炎でも、いろいろな薬物療法ができて寛解に持っていける患者さんが多いのでしょうが、それでも心理的な因子が関係する患者さんが結構おられるのですね。

【古江】 アトピー性皮膚炎の患者さんに漢方療法も加えながら満足度の検討をした報告2)(日本東洋医学会誌 62(2)133-141 ; 2011)では、満足度はPSS-AD(アトピー性皮膚炎用心身症尺度)とは相関していないのです(文献内、図7)。つまり、軽症でも心理的なストレスが高い人がいるということです。これは私たちの診療でもしばしば経験し、医療者側では「これくらいいいじゃないの」と思う症状でも、患者さん自身は大変なストレスの状態にある場合があります。ですから、PSS-ADのような指標などを導入しないと、本当に患者さんが困っている状態はわからないと思いました。一方、私たちがこういった指標をすぐ皮膚科に導入できるかというと、訓練も足りず不得手な部分もあるため、患者さんの話をよく聞きながら、必要に応じて心療内科を併診していただくことをお勧めしています。

古江 増隆 先生

【久保】 九州大学心療内科 初代教授の池見酉次郎先生のころの話ですが、アレルギー疾患と心理的因子には関係があるという研究があります。“ハゼ負け”は、通常はハゼに接触すると起こるのですが、一部の患者さんでは、目をつぶらせて「今からハゼの葉をあなたの皮膚に当てます」と言って暗示にかけると、実はカシの葉で撫でていてもハゼ負けが起こります。そういう人の場合、「今から当てるのはハゼの葉ではない」と言って、実際にはハゼの葉で撫でても、それは起こらないのです。同じような私の経験で、回診で患者さんに「蕁麻疹が出そうな状態ですね」と言った後に、しばらくして本当に蕁麻疹が出たことがありました。やはり、心理的な因子が皮膚症状にも影響を及ぼしていると思いました。

ハゼノキ : ウルシ科ウルシ属の落葉小高木。かぶれることがある。

【古江】 蕁麻疹もアトピー性の湿疹も、痒みが前面に出る疾患です。痒みは脳で自覚するので、やはり心理的な影響を強く受けると思います。先の論文にもあるように、心理的に相当強いストレスがある状態ですと、症状が一見軽そうでも、恐らくずっと痒みが続き、それがまた患者さんにとって大変なストレスになります。

【久保】 たとえば歯科治療で口に注意を向けていると、ちょっとした刺激でも痛いと感じますね。それと同じように痒みも、そこに敏感になっていると、ちょっとした痒みでも強く感じるということですね。

【古江】 おっしゃる通りで、痒みも「どういうときに痒いか」というアンケートをとると、何かに集中したりしているときは痒くないものが、リラックスしているときに、突然痒みが強く出る瞬間があるようです。顕著なのは子どもの場合で、ゲームに熱中しているときにはどんなに重症でもまったく掻いていません。自覚的なものは、別に集中する刺激があるときれいにブロックされているということがよくわかります。

【久保】 ストレスとアレルギーについては、私も幾つかの基礎的な研究を行いましたが、マウスに水浸拘束ストレスを与えると、スクラッチ行動が激しくなります。また、ネコを使った情動とストレスについての研究では、視床下部を刺激すると怒り、血中ヒスタミンも上昇しました。脳からの自律神経系が、皮膚・粘膜で肥満細胞と非常に近接して存在するため、ストレスに起因するサブスタンスPや副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンなどの影響を受けて肥満細胞が脱顆粒し、ストックされていたヒスタミンがリリースされ痒みが起こると考えられています。

スクラッチ行動 : ストレスからの逃避として痒み刺激に無関係の習慣的な掻破行動。

【古江】 アトピー性皮膚炎では、治療がうまくいかないと患者さんも諦めて治療そのものを止めてしまい、急激に症状が悪化しストレスとなり、そのストレスが慢性的になってきてうつ状態に入る方もおられます。でも、どの人がそういう状態になるか予測がつかないのも、悩ましいところです。

【久保】 心療内科では、紹介されてきた患者さんがアトピー性皮膚炎の場合は、①ストレスと症状に関連があるのか、②薬のアドヒアランスに問題はないか、③症状が長期間持続することによって、精神的なうつ・不安・不眠といった状態になって悪化していないか、三つの観点から診断して治療を行っていきます。

【古江】 皮膚科では、どうしても皮膚の治療がメインになります。きちんと患者さんが外用薬を塗っているか、薬を服用しているかの確認をしますが、最初の問診のときは、ほとんどの患者さんが「塗っています」と言います。しかし7~8割の患者さんは、使用してほしい量にはとても届いていない状態だと思います。

【久保】 先生はアレルギー講習会などで医師や患者さんに対して、ステロイド外用薬をどれくらい、どのようにして塗るか、どうやって止めていくかというお話をされていますね。今では、ステロイド外用薬に対しての抵抗感は少なくなってきましたか。

【古江】 強くステロイドを怖がる患者さんは、少なくなって来ていますが、「少しは怖い」を含めると、割合はあまり変わらないと思います。また、福岡市との共催で年に2 回「九大アトピー性皮膚炎相談会」を開いて、患者さんたちに治療方法を説明していますが、「ステロイド外用薬は、本来、そういう使い方をするべきなんですね」という声がほとんどで、使用の仕方もまだ十分に普及していないと思います。

治療の手順

【久保】 皮膚疾患の基本的な治療としては薬物療法が非常に進歩してきていますが、治療の手順は今どのようになっていますか。

【古江】 炎症反応に対しては抗炎症作用もあるステロイドやタクロリムスの外用剤を、乾燥症状に対しては保湿剤を使用します。アトピー性皮膚炎の場合で言えば、その痒みのほとんどは、ヒスタミンではなく、インターロイキン(IL)-31によって起こっていることがわかりつつあります。IL-31は、Th2細胞から産生される痒みのサイトカインです。抗炎症を目的にステロイドの外用を行うわけですが、ステロイドの外用が適正に使われているとTh2細胞が抑えられ、IL-31の産生が少し弱まるので、皮疹の炎症だけではなくてその痒みも抑えられると考えられます。また、Th2細胞がIL-4やIL-13を出して、皮膚のバリアを激しく壊すことがわかってきました。そのため、アトピー性皮膚炎ではバリア障害が強く起こっていますから、保湿剤でその障害を軽快させます。加えて、抗ヒスタミン剤を併用するのがスタンダードな薬物療法です。2018年からは、必要に応じて、IL-4受容体に結合しIL-4、IL-13のシグナル伝達作用を抑える注射薬の生物学的製剤が使えるようになりました。アトピー性皮膚炎の病態の中枢にIL-4、IL-13が関与していることが証明されたと言えます(図)。

図 アトピー性皮膚炎の薬物治療

漢方薬の位置づけ

【久保】 そのような標準的な薬物療法もあるなかで、先生は漢方薬をどういう位置づけで使うのですか。私も、アレルギーの喘息の患者さんを診ていましたが、心療内科では通常の身体的なお薬の他に、小柴胡湯や柴朴湯など、気分にも働くような漢方薬が有効なことも多く経験しました。また、私は補剤にも興味があり、結核の患者さんでは抗結核剤はもちろん処方しますが、それだけでは難しい、あるいは耐性菌があるといった場合に、免疫調整作用を期待して補中益気湯や六君子湯などを使うことがあります。また、痛みの場合は牛車腎気丸、不眠や感情のコントロールが難しい人には抑肝散といった漢方薬を使うこともありますね。

【古江】 漢方薬は、実はアトピー性皮膚炎の多くの患者さんで使われています。蕁麻疹でもそうですが、すべての患者さんに最新のお薬が使えるわけではありません。そうすると、前述のようなやはり従来の治療法が標準的となります。毎日根気よく治療を重ねれば効果は出ますが、精神的なストレスや抗ヒスタミン剤の内服だけでは抑えられない痒みなど、種々の理由から患者さんの満足が得られない場合があります。そういうときの有効な補助療法として、特に、アトピー性皮膚炎は慢性の湿疹ですので、漢方薬の出番は十分にあると思います。

【久保】 アトピー性皮膚炎は、いわゆる身体的な症状プラス精神的な不安とか抑うつなどを伴っていることが多いわけですね。

【古江】 補中益気湯については、アトピー性皮膚炎に対する多施設共同無作為化二重盲検比較試験3)(Evid Based Complement Alternat Med 7(3)367-373 ; 2010)が行われ、九州大学も参加しました。抑うつ的な気虚を有するアトピー性皮膚炎の患者さんで、補中益気湯の効果についてプラセボ比較を行いました。証でいう気虚の判断は、漢方医の専門の先生に質問表を作っていただいて、スコア化して行いました。対象となる患者さんを、プラセボの漢方薬と補中益気湯の2群に分け、併用の外用療法はそのまま継続し、最終的にどちらが有効であったかを見ました。その結果、皮疹の状態には差がなかったため、効かなかったのかなと思っていたのですが、ステロイド等の外用剤の使用量を比較すると、気虚と判断され、補中益気湯を投与された群では、見事に外用剤の使用量が少なかったのです。外用剤を減らした状態で症状のコントロールができていたことから、やはり漢方薬にはしっかりとした補助作用があるのだと実感しました。ほかの漢方処方では、このようにプラセボまで使って二重盲検をしたようなエビデンスレベルが高い試験がないのですが、漢方に詳しい皮膚科の先生からは、患者さんの証に合わせて有効性のあった症例はたくさん報告されています。目にすることが多い処方として黄連解毒湯、最近では抑肝散も使われたりしています。

【久保】 抑肝散は、精神症状、特に不眠とかうつ傾向などに使われますね。

【古江】 患者さんの中には、ストレスでうつ的になる方もいれば、逆に感情的になられる方もいます。感情的になられる方の率は少ないですが、抑肝散を使うととてもよくなったりされます。反対にそういう方に補中益気湯は逆療法で、漢方薬を上手に利用する余地が残っていると思います。

【久保】 痒みは、脳が最終的に感じますので、精神症状にも影響を及ぼし、さらには体全体に影響を及ぼすことになるわけですね。その他の病態ではいかがですか?

【古江】 今までアトピー性皮膚炎の痒みについて述べてきましたが、老人性の痒みは、またちょっと異なっています。いわゆる皮膚乾燥症ですが、うつ状態になるほどの方がいます。この痒みがどうやって起こるのかは、病態はまだよくわかっておらず、今のところ、老化により皮脂腺が衰え保湿機能が低下して乾燥していくことよりも、皮膚の角層の能力が落ちて水分保持能が少なくなることの影響が大きいと考えられています。バリア障害が起こり表皮からいろいろとサイトカインが出やすくなり、そのサイトカインがT細胞の働きをTh2系に傾かせます。アトピー性皮膚炎と病態が異なりますが、バリア障害により、痒みが起こる原因としては、同じような状態になっているのかもしれません。

【久保】 皮膚のバリア障害が起こり、神経を刺激しやすくなるといったことはないですか。

【古江】 それは証明されていて、バリア障害が起こりますと、皮膚からTh2系に傾かせるようなサイトカインが出るだけではなく、皮膚が少し厚くなります。そうなると神経線維がそこに入ってきやすく、より痒みを感じやすくなり、両方の要因で痒みが出ているのだと思います。一般的に、この老人性の乾燥症による痒みは、アトピー性皮膚炎の人の痒みとは感覚的にもちょっと異なるようで、まずは保湿剤をよく使って痒みを取ります。しかし、保湿剤だけでは痒みがとれないとか、ステロイド外用薬では逆に悪化する場合もあり、そういうときには漢方薬の出番です。

【久保】 どのような漢方薬を使いますか?

【古江】 八味地黄丸を使います。八味地黄丸が割と使われるようになったのはごく最近だと思います。保険適用外ですが、皮膚の痒みにも効果があるという報告も出ています4)

八味地黄丸は八味丸と同一処方

【久保】 老人性の疾患に結構使われていますね。漢方薬は、皮膚の症状だけでなく、ほかの身体症状や精神的な症状、あるいは非常に虚弱になっているとか、そういう体質的な面も見ながら使うということですか。

【古江】 漢方薬にとても詳しい山田秀和先生の総説「皮膚科と東洋医学」5)(日本皮膚科学会誌 122(12)2869-2874 ; 2012)に、皮膚科でよく使う20処方が挙げられています。ここに出てくる、たとえば皮疹や痤瘡に十味敗毒湯あるいは荊芥連翹湯、口内炎に半夏瀉心湯などの漢方薬は、補うというよりも主となる薬としても有用です。口内炎の治療にいい治療薬はなかなかないのですが、そういうときに半夏瀉心湯を出してみるとか、もちろん全員に効くわけではないですが、効く人には速攻で効く場合もあり、この20処方の漢方薬を知っているだけで、皮膚科の診療は大分幅が広がります。皮膚科の先生方には、知っておいていただきたいと思います。九州大学にも10年程前に漢方外来ができました。皮膚科でも、興味のある医師が漢方外来に参加し漢方好きな先生がかなり増えてきました。訓練を受けるようになると、特に舌診や腹診も含めて「証」の問い方が上手になり、単なる皮膚科診療だけでなく、漢方医学的にも「証」に合った漢方薬を使うケースが増えました。

【久保】 『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』6)の中に「診断治療アルゴリズム」が示されています。保湿外用薬スキンケア、そして薬物療法を行うわけですが、そこに補助療法として心身医学的アプローチ、治療アドヒアランスの配慮と記載されています。皮膚科の有志の先生が日本皮膚科心身医学会を作って研究もされているようですが、実際に皮膚科での心身医学的なアプローチはいかがですか?

【古江】 このガイドラインの補助療法には漢方薬も示されています。日本皮膚科心身医学会は、積極的に勉強する、あるいは学問としても発展させようという動きで、2011年に創設され、活動しています。しかし、一般的な皮膚科での診療ではなかなか専門的な心身医学的なアプローチは難しいため、心療内科の先生方にお願いすることになります。少なくとも興味があり、訓練を積み、学会にも積極的に参加するなど、とにかく勉強していかないと、片手間ではとても無理だと思います。

【久保】 日常診療で心身医学的なアプローチを取り入れている先生も、時間的な制約や保険診療の面からも制約もあり、現実的には難しいわけですね。

【古江】 常に、まず患者さんはとても強いストレス状態にあるという認識を持つことが大事で、病変や痒みだけに着目して治療しようとすると、必ずと言っていいほど患者さんの不信感を招きます。疾患が精神的な状態とQOLを下げていますので、患者さんの目線で、何に困っているのかを聞くことから治療を開始しないと、患者さんの満足度を上げる治療にはなりません。それらを含めて心身医療と考えれば、少なくとも皮膚科医がそういうことに目を配って、診療の中に問診を重視することから始め、広めていくことが重要だと思います。

【久保】 薬物療法だけで治療するといっても、それは限界があります。先生が言われたように、病態から見ると症状が軽くても、心理的な苦痛をかなり感じている患者さんが結構います。最初の段階から患者さんの苦痛をわかりながら治療していくことが必要ということですね。

心療内科の治療法もやはり同じように、まず患者さんとの信頼関係-ラポールをいかにつくるかが一番大事なんですね。紹介されて心療内科に来る患者さんには、医療への不信が結構あるのです。

ラポール(rapport) : 疎通性。医療者と治療を受ける人が相互に信頼し合える関係で、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す言葉。

【古江】 確かにそう思います。もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

【久保】 信頼関係は、患者さんのこれまでの病歴をきちんと聞きながら、ラポールを作っていくということになります。その基本は面接になります。単に患者さんから話を聞くだけではなくて、患者さんは話すことによって苦しい気持ちが放たれ、感情の発散が起こる、これが効果なのですね。病因がどこにあるのか、環境因子、心理的な因子、受けとめる側の因子が潜んでいないか、アドヒアランスを含めて生活状態はどういう状態なのか・・と。話すことにより、患者さんは、気持ちが楽になり、自律神経・内分泌・免疫系が良い状態に持っていかれ、自然治癒力が上がると考えられます。残念ながら、時間的な制約や患者さんがなかなかすべてを受け入れることができなくて、こちらに不満や苦痛を言われる場合もあります。また、患者さんが楽になった分、医師の方がしんどくなったりすることがありますが、患者さんの話を聞き、とも振れしながら観察することが必要なのです。そういうことを考えながら病態を把握し、まずは患者さんの食事・睡眠・運動・アドヒアランスを含めた生活のリズムをいかに整えていくかを踏まえつつ、それぞれの薬物療法を行っていきます。同時に、心理的にも問題の大きいような場合は、臨床心理士の方たちと協働の治療も検討します。たとえば子供であれば、家族との関係が非常に大きいので家族療法を、分別がつくような年齢であれば、その人の考え方、受けとめ方や行動を変える認知行動療法などを行います。認知行動療法は保険点数でも認められ、さまざまなリラックス法を取り入れながら治療していきます。

漢方薬の位置づけ

【古江】 私も、なかなか症状が改善しない患者さんを心療内科に紹介した経験があります。何人かの患者さんは、何に対してストレスを持っているのかを話してくれなかったのですが、数カ月後に心療内科でのカルテを見て初めて、悩んでいる原因に気づかされたことがあります。悩みの原因には、ご主人やお子さんとの関係、大学の学生さんではゼミの先生とうまくいかないことが相当なストレスだったらしく、ゼミを変えたらすっと良くなったというものもありました。学生が自分で気づいていたのかどうかは分からないのですが、心療内科での面接を受けていく中で、自身で何にストレスを持っているか咀嚼できたのかもしれません。とても助かった記憶があります。

健康の定義 Health is a state of complete physical,mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(WHO憲章 前文より)

【久保】 多くの方は、自分のストレスの原因に気づいていないことが多いのです。心療内科の治療は、全体的な気づき- whole awareness です。体や心の状態へ気づき、さらには社会、自然、宇宙内存在までも含めての気づきが重要です。WHOの健康の定義も同じですね。心理療法でマインドフルネスといいますが、頭のてっぺんから足の先まで自身の体をスキャンするようにして、「今」は身心がどういう状態であるか俯瞰します。身心の状態に気づいていくことによって、いかに自分自身が気づいていなかったことが多いかがわかります。

【古江】 私も診察の中で「何か気になることがあるの?」とか「最近生活で何か困ったことがあるの?」と何度も聞くのですが、教えてくれなかったものです。おそらくおっしゃったように、患者さん自身が、隠しているのではなく気づいていないのかもしれないですね。

【久保】 ご自身で意識している場合は、状態を知っているからそれほど悪化因子にはならないのですね。気づいていないときには、どこかで葛藤してホメオスタシス系が十分働かない場合がありますから、気づきが重要だと言えます。

おわりに

【久保】 今日は、皮膚科と心療内科の専門家として「皮膚とこころの狭間で」ということで対談させていただきました。基本的な考え方として、皮膚疾患には心理的な因子も関係していることも多く、全体的に心身両面から見て治療していくことが必要ということですね。その方法として、初期から患者さんを心身両面から見るということと、お薬としては、基本的な薬物療法はもちろんですが、併せて漢方薬も一つの大きなツールであるといえると思います。
今日は、貴重なお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。

【古江】 ありがとうございました。

本対談は2019年4月 福岡にて開催

引用文献

  • 1)久保千春,千田要一 アレルギー 54(11)1254-1259;2005
  • 2)望月良子ら 日本東洋医学会誌 62(2)133-141 ; 2011
  • 3)Kobayashi H. ら Evid Based Complement Alternat Med 7(3)367-373 ; 2010
  • 4)石岡忠夫 , 青井禮子 新薬と臨牀 41(11)2603-2608 ; 1992
  • 5)山田秀和 日本皮膚科学会誌 122(12)2869-2874 ; 2012
  • 6)公益社団法人日本皮膚科学会 , 一般社団法人日本アレルギー学会 , アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会 日本皮膚科学会誌 128(12)2431-2502 ; 2018
久保 千春 先生、古江 増隆 先生

久保 千春 先生

【ご経歴】

  • 1973年  九州大学医学部卒業
  • 1982年  米国オクラホマ医学研究所 clinical research scientist
  • 1984年  国立療養所南福岡病院内科医長
  • 1988年  九州大学医学部心療内科助手
  • 1993年  九州大学医学部心療内科教授
  • 2008年  九州大学病院長
  • 2014年  九州大学病院長退任
  • 2014年~ 九州大学総長

古江 増隆 先生

【ご経歴】

  • 1980年  東京大学医学部卒業
  • 1986年  米国National Institutes of Healthに留学
  • 1988年  東京大学皮膚科学講師
  • 1992年  山梨医科大学皮膚科助教授
  • 1995年  東京大学医学部皮膚科助教授
  • 1997年~ 九州大学医学部皮膚科教授
  • 2008年~ 九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長 兼任
  • 2012年~ 九州大学環境発達医学研究センター教授併任
皮膚とこころの狭間で ー患者に向き合った治療の手ー

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