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アドヒアランス向上のための患者指導のコツ

皮膚外用薬のアドヒアランス向上の工夫について、萱野勇一郎先生にお話を伺いました。

アドヒアランス向上のための患者指導のコツ

Qアドヒアランス向上のためにどのようなことを心がけていらっしゃいますか。

アドヒアランス向上の基本は、良好なコミュニケーションだと思っています。具体的には、日頃から患者さんに「お薬はちゃんと塗れていますか」「どのくらいの量を、どのように塗っていますか」「症状に変化はありますか」といった声掛けをして、症状を見ます。正しく塗れていたり、症状が改善したりしているようであれば、それを褒めてあげます。こうしたコミュニケーションが、薬を塗り続けるモチベーションにつながります。また、塗れていなかったり、症状が改善していなかったりする場合には、その理由を聞くきっかけになり、次の指導に生かせます。
良好なコミュニケーションは患者さんと医療従事者だけではなく、医療従事者間でも大切です。医師や薬剤師をはじめ地域の医療従事者がともに患者さんを見守り、情報交換できる連携づくりは、アドヒアランス向上にもつながってくると思います。

萱野 勇一郎 先生

Q外用薬の塗布量はどのように説明されていますか。

軟膏、クリームに関しては、FTU(Finger Tip Unit)という塗布量の目安があります。ただし、FTUはステロイド薬と保湿剤の目安であり、NSAIDsや抗真菌薬など他の外用薬には必ずしも当てはまりませんので、メーカーが提供する情報を確認し、使用量を指導します。
使用量が少ないと効果が得られないこともありますので、十分量をしっかり塗布することが大切です。特に伸びの良いローション剤などは使用量が少なくなりがちなので、最初に十分量を手にとって、必要以上に塗り広げないよう指導しています。

皮膚外用薬塗布量の目安
皮膚外用薬塗布量の目安

Q塗り方についてはどのように説明されていますか。

添付文書には、塗布(塗り広げる)と塗擦(擦り込む)という2種類の塗り方の記載がありますが、注意したいのは塗擦です。患者さんによっては強く擦り込んでしまい、バリアが壊れて吸収が高くなりすぎたり、皮膚にダメージを与えることがあります。塗擦とされている薬剤でも、皮膚外用薬の場合にはやさしく塗り込むという意味に捉えて説明しています。

Q薬剤吸収率を考慮して患者指導をする必要はありますか。

薬剤の吸収率は皮膚の厚さによって違い、最も皮膚が厚い足の裏と口腔内などの粘膜を比べると、300倍以上の差があります。また、子どもは角質が薄いので、吸収率が高くなります。
バリア機能が低下している場合も吸収率が高くなります。しかし、バリア機能が回復し、薬剤がさほど必要ではなくなるにしたがって吸収率は下がるなど、皮膚の状況によっても変わります。ですから、吸収率を気にするよりは、きちんと薬剤が塗れているかどうかや、症状の変化を見ることのほうが大事だと思っています。

Q済生会中津病院ならではのアドヒアランス向上の工夫を教えてください。

当院では、患者さんの使いやすさを考えて、外用薬の混合調剤を行っています。ただし、外用薬の混合は、配合変化に注意する必要がありますし、安易に混合すると何が効いているのか、何が悪さをしているのかがわからなくなってしまいます。そもそも皮膚外用薬は、有効成分の含有量は0.数%とわずかであり、逆を言えばほとんどが基剤である、とてもデリケートな薬剤です。また、ステロイド軟膏は有効成分が過飽和の状態で薬剤中に溶解しているものが多いため、ワセリンで十数倍に希釈しても効果は変わりませんが、保湿剤は希釈すると効果が低下します。さらに、同じ添加物でも乳化剤やワセリンのグレードの違いにより配合時にブリーディング(分離して水分が浮き上がる)が起こることもあります。このような背景から、当院では院内で決められている配合、希釈倍率以外の調剤は行いません。長年同じルールで行っていますので、ある意味でエビデンスは構築されていると考えています。 また、混合した製剤は、患者さんの利便性を考えて、5、10、20、30、50gと、さまざまなサイズの軟膏壺を用意して、使いやすい大きさのものに入れて提供しています。

さまざまなサイズの軟膏壺
皮膚外用薬塗布量の目安

患者さんに塗り方を伺うと、塗り過ぎよりも塗る量が少ないことが多いようです。チューブより軟膏壺からのほうが、薬剤がとりやすいので、メリットはあると考えています。そして、最初にも述べましたが、日頃から患者さんの話を聞き、症状を見て、患者さんの治療モチベーションを高めるコミュニケーションを心がけています。

この記事は2019年5月28日にインタビューしたものです。

大阪府済生会中津病院薬剤部長

萱野 勇一郎 先生

ご経歴

  • 1992年 北陸大学薬学部衛生薬学科 卒業
  • 1997年 北陸大学大学院薬学研究科博士課程 修了(学位取得)
  • 1997年 金沢大学医学部附属病院 薬剤部
  • 1998年 福井医科大学(現 福井大学)医学部附属病院 薬剤部
  • 2007年 富山大学 大学院医学薬学研究部 助教 (内地留学2年間)
  • 2013年 京都大学医学部附属病院 薬剤部 副薬剤部長
  • 2015年 社会福祉法人恩賜財団済生会支部 大阪府済生会 中津病院 薬剤部長
萱野 勇一郎 先生

【委員会活動】

  • 日本病院薬剤師会 地域医療委員, 重篤副作用疾患別対応マニュアル改訂委員
  • 大阪府病院薬剤師会 代議員
  • 全国済生会病院薬剤師会 監事

【 関連製品 】

  • “ダイアコート”
  • “ドレニゾンテープ”
  • “ビーソフテン”

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