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手湿疹治療の基本とちょっとしたコツ

皮膚疾患治療シリーズの情報誌『 To Dermatologist 』をwebコンテンツとしてご紹介していきます。

.手湿疹診療の実際 -治療-

7.手湿疹診療アルゴリズムは、「軽症から中等症」と「重症」の入り口がある。目次へ

手湿疹の具体的な治療方法は、アルゴリズムに集約されています。

アルゴリズムの大きな特徴の一つとしては、「Ⅰ. 軽症から中等症の手湿疹」に対する第一段階と、「Ⅱ. 重症の手湿疹」に対する第二段階というように入り口を分けたことがあげられます。もう一つは、治療方法をSTEP1からSTEP4と階段状に表現し、満足できる治療効果が得られない場合は状況に応じてSTEP up することになります。

Ⅰ.軽症から中等症の手湿疹

軽症から中等症では、「職業歴を含む病歴を聴取し原因抗原・刺激因子を推測。感染症(真菌、細菌、疥癬など)を除外」をしたうえで、STEP1 から治療を開始します。

●STEP1:原因抗原・刺激因子からの回避、保湿剤やグローブを用いたスキンケア、さらに炎症を伴う場合はステロイド外用薬を使用します。原則として4 週間以内に効果判定を行い、軽快していれば使用しているステロイド外用薬の塗布回数を減らすなど用量を調節しながら経過を観察し、軽快しない場合はSTEP2に進みます。

●STEP2:ステロイド外用薬が適切に使用されていることを確認し、改善に至っていない場合はより強力なステロイド外用薬の使用を考慮します。また患部をかきむしると、皮膚バリアが傷害され、皮疹が悪化するという悪循環につながるため、痒みを抑える目的で抗ヒスタミン薬を追加することもあります。

Ⅱ.重症の手湿疹

STEP2 の治療で症状が軽快しない場合、また見た目で明らかに重症と思われる症例については『Ⅱ. 重症の手湿疹』に進みます。ここでは、再度の詳細な病歴聴取を行うとともに皮膚生検による診断、パッチテストやプリックテストなどの検査を施行し、その結果に基づいて患者さん個々に合ったテーラーメード治療法を試みます。パッチテストやプリックテストで原因物質が特定できれば、それを回避することが必要です。手湿疹の原因は多様であり、患者さん個々のライフスタイルにあわせて、いろいろな対処法があります。それでも症状が軽快しない場合には、STEP3を施行します。

●STEP3:PUVA、UVB、エキシマランプなどの光線療法です。さらにSTEP3で軽快しない場合はSTEP4を施行します。

●STEP4:全身的治療であり、ステロイドやシクロスポリンの内服(シクロスポリンは保険適用外)を行います。ただし、投与期間は4 週間以内を原則とし、十分な効果が得られない場合には、再度、アルゴリズムの最上段に戻ります。

このようにアルゴリズムにおいて重要な点は、選択した治療を4 週間単位で再評価すること、そして治療反応性に応じて診療自体を構築していくことです。さらに重要なことは「適切な診断と悪化要因の評価」であり、常に「これは本当に手湿疹か?」「他に見逃している悪化因子はないか?」という意識をもって診療にあたることです。

8.保湿剤を“しっかり”と塗布していただくため指導に工夫が必要。目次へ

手湿疹治療において、皮膚のバリア機能を補い皮疹の悪化を防ぐために、保湿剤の塗布は重要であり、患者さんには保湿剤を“しっかりと塗っていただく”ことが求められます。保湿剤は、1日の塗布回数に保険上の制約はないので、頻回にしっかりと塗ることを患者さんに励行していただきます。

“しっかりと塗る”ということは「その都度、確実に塗る」「塗っても乾くようなら多めに塗る」「わずかな量をこすりつけるのではなく、ある程度多めに塗る」といったことを患者さんにご理解いただく必要があります。

さらに、保湿剤による治療は“しっかりと塗る”ことに加えて、確実に継続する、すなわち服薬アドヒアランスが重要です。そのためには、患者さんに処方した保湿剤の塗り心地をお聞きして患者さんの好みにあった剤形を選択し、「これなら続けられそうですか」とお聞きしながら、患者さんの治療に対するモチベーションの維持・向上を図ります。また、どの程度の量をどのように塗るかということを、医療者側がデモンストレーションを兼ねて一緒に塗ってみることも良い方法だと思います。

保湿剤の剤形については、たとえばワセリンは保護作用があり、手洗いにより落ちづらいというメリットもありますが、一方でべたつき感があります。医師が治療にワセリンを選択しても、患者さんが手触りや塗り心地を嫌がってしまうと、それが塗布回数や塗布量にも影響してしまいます。保湿剤はクリーム剤やローション剤など患者さんの好みに応じた剤形の選択が可能です。クリーム剤も保湿効果に優れますが、患者さんは比較的、ローション剤のようにサラッとした剤形を好まれる方が多いと思います。

保湿剤の服薬アドヒアランスを高める工夫の一つに、患者さんが日常手洗いをする場所に保湿剤を置いていただき、手洗いの後に必ず塗布していただきます。また、全身に症状が及んでいるような患者さんなら脱衣所に保湿剤を置いて、お風呂上りの身体を拭いた後にすぐに塗布してからパジャマを着るようにしていただきます。

9.グローブは手の保護に有用。手を冷やさない。目次へ

グローブは、手の水分や皮脂を触ったものに奪われないよう、手の保湿・保護のために用いられます。たとえば主婦の場合、洗濯物をたたむという日常の行為でも水分と皮脂が洗濯物に奪われてしまいますから、手洗いやウェットワークをしていない時には保湿剤や外用薬の塗布後に木綿の手袋などで手を保護することをお勧めしています。

さらに、保湿剤を頻回に塗布してもすぐに乾燥してしまうようなら、グローブ型のウェットラッピング剤の着用を勧めることもあります。ただし、木綿の手袋を濡らすとなかなか乾かずに手がふやけてしまい、手湿疹が悪化することがあります。米国のガイドラインでも「濡れたグローブを長時間着用しない」と推奨しています。さらに、手を冷やすとさらに乾燥し、手湿疹が悪化してしまいますから、木綿の手袋が濡れてしまった場合は乾いたものに換えていただきます。

10.ステロイド外用薬は“ストロング”クラスを基準として使用を検討する。目次へ

手は角層が厚く皮脂腺がないなど解剖学的に他の部位と異なることから、外用薬の吸収効率が悪く、そのためにステロイド外用薬のランク2)の選択に際してはストロング(Ⅲ群)を基準に治療を開始します。それでも治療効果が不十分の場合はベリーストロング(Ⅱ群)、さらにはストロンゲスト(Ⅰ群)までランクを上げます。

ただし、ストロンゲストは長期間の使用によって皮膚の萎縮などの副作用に注意が必要です。症状は軽快し、痒みや落屑が治まっているようなら、その場にとどまるのではなく他の治療に切り替えるなど、治療法を見直す必要があります。一方で満足のいく効果が得られない場合には、診断を見直す必要があります。

剤形については、クリーム剤の方が浸透性は良いといわれていますが、皮膚に亀裂などがあるとクリームが刺激になってしまうことがあるので、そのような場合は軟膏を選択します。保湿剤と同様に患者さんの好みに合った剤形を選択することも、服薬アドヒアランスの向上につながります。

塗布回数は1日2回を基本とし、塗布量は塗布した部分が“てかる”くらいの量を塗っていただきます。皮疹に軽快がみられた場合のSTEP down の方法としては、ステロイドのランクを下げるのではなく、2回を1回に、1日1回を数日に1回に、といった具合に塗布回数を減らして様子をみるようにします。

11.ステロイドテープ剤は亀裂部分や苔癬化、浸潤の強い部位に貼付すると効果的なことがある。目次へ

手湿疹治療において、ステロイドテープ剤(以下、テープ剤)を使用するケースも多くあります。手は外用薬の浸透性が悪い部位なので、テープ剤に切り替えることでステロイドの吸収性が向上し、治療効果を高めるという利点があります。

テープ剤を広い範囲に貼付することは現実的ではありませんが、亀裂部分を保護する目的で、あるいは苔癬化や浸潤が強くてステロイド軟膏・クリームの4 週間塗布ではなかなか軽快が得られない場合にテープ剤へ切り替えることは治療選択肢の一つになります。実際に、亀裂ができていて困るという理容師や美容師にテープ剤を処方すると“とても助かる”とおっしゃいます。また、貨幣状型のように皮疹が限局している場合にも有効な治療法だと思います。

使用時に注意すべきことは、テープ剤をステロイドと認識されていない患者さんがいることです。局所の副作用発現の可能性があることから、貼付部位に一致して皮膚の萎縮などがみられるような場合はいつまで使用するかの判断や、貼付部位を変えるなどの注意が必要です。

12.適切な紫外線療法は有用。目次へ

紫外線療法には外用または内服PUVA 療法、ブロードバンド・ナローバンドUVB 療法、エキシマランプがあり、いずれも短時間である一定の効果を得ることができる優れた治療法です。われわれもステロイド外用薬による治療で治療効果が得られないときには紫外線療法をお勧めしています。

ただし、紫外線療法は長期化に伴う色素沈着や、PUVAでは光老化の問題が生じます。皮疹が軽快しても皮膚が黒ずんだり火傷をしたような状態になってしまったり、皮膚老化が生じることがあるので、患者さんにはそのようなリスクを説明し、診療の際は副作用の有無に留意します。

また、紫外線療法も漫然と長期にわたって施す治療法ではなく、他の治療法と同様に4 週間をめどに治療効果を判定します。そして、治療効果が得られた後にどのように紫外線療法から離脱するかを念頭に置く必要があります。

13.全身療法を導入する際は、治療中止後にどうするか長期的な計画が必要。目次へ

STEP4は、全身的治療(ステロイド、シクロスポリンなどの内服)ですが、ガイドラインに記載されているからといって、安易に選択すべき治療法ではなく、除外診断や鑑別診断がしっかりとなされ、悪化因子などの検索もしっかりと行われた患者さんで、さらにQOLの維持・向上のためにどうしても必要な治療法として選択されるべきです。さらにガイドラインでは、「4 週間以内を原則とする」としています。

一方、全身療法が必要な手湿疹の患者さんがいることも事実です。全身療法の導入に際しては、4 週間以降にどのような治療法に切り替えるか、得られた効果をどのような治療法で維持するか、ということを念頭に選択することが重要です。また、紫外線療法とシクロスポリンは併用できないこと、紫外線療法からシクロスポリンへの移行は期間を設けることも念頭に、長期的な計画を立てたうえで全身療法に移行することが必要です。

14.重症例ではテーラーメード治療でより患者さん個々に即した治療と指導を行う。目次へ

ガイドラインでは重症例の治療において、テーラーメード治療法が記されています。具体的には、原因となっている物質をどのように排除するかということを考えながら、患者さん個々の情報を加味した治療が必要となります。

それまでに施行してきた保湿剤によるスキンケア、ステロイド外用薬による炎症のコントロールに加えて、さらにプラスアルファで患者さん固有の悪化因子を考慮しながら皮膚の防御法について指導します。

15.痒みの訴えがあれば、積極的に非鎮静性抗ヒスタミン薬を使用する。目次へ

痒みのひどい患者さんや、Ⅰ型アレルギーが疑われて原因となる物質に触れると短時間で痒みが現れるような患者さんに対して、痒みを全体的に抑える目的で非鎮静性抗ヒスタミン薬の内服が勧められます。

使用時期についてガイドラインではSTEP2 からとしていますが、患者さんが痒みを強く訴える場合はSTEP1の段階であっても使用してよいと思います。

16.病型によって治療反応性は異なる。目次へ

治療効果の判定は、基本的には治療開始4 週間後を目途に行います。ただし、病型によって治療反応性が異なるため、必ずしも4 週間にこだわる必要はありません。

たとえば、角化型手湿疹のように角質が増殖しているような場合は外用薬の経皮吸収が悪いために効果発現までに時間がかかります。一方で、貨幣状型手湿疹の場合は早期にステロイド外用薬に対して反応します。このように病型によって治療反応性が異なることも念頭に、経過観察と患者指導を行うことも重要です。

17.患者さんに成功体験をしていただく。目次へ

治療を継続するためには患者さんの治療に対するモチベーションをいかに維持するかが大きな課題であり、そのためには患者さんに“成功体験”をしていただくことが重要です。

経過において患者さんと情報共有しながら医師との信頼関係を築いていくことが患者さんの治療に対するモチベーションの向上にもつながります。

.おわりに

職業性皮膚疾患の7 ~ 8 割が湿疹・皮膚炎であり、さらにそのうちの8 割以上が手や上肢に発症します。しかも、手は日常的に原因となる物質に触れるため、経過が長期化するケースも少なくありません。しかし、多くの患者さんは、皮膚の症状に悩みながらも、仕事を続けていかなくてはなりません。

多くの手湿疹で困っている患者さんが、職場や家庭でパフォーマンスをしっかりと発揮できるように、社会的にデメリットが無いように、私たちが適切な治療を提供することによってそのお手伝いをするということは、皮膚科医としての大変重要な使命だと思います。

文献

  • 1)日本皮膚科学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会、手湿疹診療ガイドライン委員会:手湿疹診療ガイドライン. 日皮会誌 128(3); 367-386, 2018
  • 2)公益社団法人日本皮膚科学会、一般社団法人日本アレルギー学会、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018.日皮会誌 128(12);2431-2502, 2018

手湿疹治療の基本とちょっとしたコツ

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