Ⅲ.虫刺症の見分け方のポイント
6.虫刺症と痒疹の鑑別診断が重要目次へ
虫刺症と近似する疾患に痒疹があります。痒疹も虫刺症と同様に痒みが強く、膨疹、紅斑、丘疹や小結節を呈する疾患ですが、虫刺症との最も大きな違いは刺点の有無です。虫刺症には刺点がありますが、痒疹には刺点がありません。
しかし、虫刺症でも前述のように掻破によってびらんや痂皮を伴うと刺点を確認することが難しく、個疹の性状だけでは痒疹と虫刺症の鑑別が困難となることがあります。さらに、虫刺症を契機として、結節性痒疹、自家感作性皮膚炎を生じることもあります。
そのため、特に痒疹との鑑別においては刺点の有無に加えて、皮疹の分布の確認と合併症を含めた詳細な病歴を聴取することが大切です。必要に応じて、病理組織検査を行います。
7.虫刺症は刺されたら早めの受診を促す目次へ
虫刺症を単に“虫刺され”と一括りに考えるのではなく、原因となっている虫の種類まで診断(推定)することが、適切な治療法の選択やその後の再発予防のためにも重要です。
患者さんには、なるべく早く専門の医療機関を受診していただき、悪化する前に診察・鑑別の上で、適切な治療を受けていただければと思います。
Ⅳ.虫刺症の治療
8.虫刺症治療の基本はステロイド外用薬の塗布目次へ
一般的な虫刺症であれば、治療の基本は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の外用です。特に、刺された(咬まれた)翌日以降に腫れが悪化することが多いハチやムカデなどの場合、まずは「ストロンゲスト」のような高ランクのステロイド外用薬を使用します。ステロイド外用薬を使用する際には、患者さんの病態に本当に合っているランクのステロイド外用薬を選択することが必要です。控えめにランクの低いステロイド外用薬で不十分な治療を開始すると、後々こじれてしまうこともあるからです。
図5に示す当院を受診されたムカデ咬症の患者さんは、ムカデに咬まれて2 時間後に受診され、直ちに「ストロンゲスト」のステロイド外用薬を塗布することで初回の診療で終診となりました。
ステロイド外用薬を1 週間程度塗布しても症状が遷延するようなら、使用するステロイド外用薬をランクアップする、あるいは抗ヒスタミン薬(内服薬)を併用することも考慮してよいと思います。
また、ハチ刺症、ムカデ咬症、広範囲の毛虫皮膚炎などの場合やステロイド外用薬の効果が不十分な場合は、ステロイド内服薬の処方を考慮します。通常はプレドニゾロン換算で5 ~10mg/日を3日~ 1 週間程度処方しますが、蚊刺過敏症の場合には30mg/日を数日分処方することもあります。ステロイドの内服薬を処方した患者さんには1 週間後に受診をしていただき、状態を確認しています。
市販の外用薬で治療をされる患者さんも多くいらっしゃいますが、症状の改善がなかなか得られない場合、使用しているステロイド外用薬が適切なランクではないことが考えられます。市販のステロイド成分配合薬に配合されているステロイドのランクは「ストロング」以下であり、「ストロンゲスト」「ベリーストロング」はありません。また、市販のステロイド成分配合薬には鎮痒薬などの添加物が配合されているため、それらの成分にかぶれて悪化することがあります。
ステロイド外用薬の塗り方については、近年FTUの考え方がありますが、虫刺症は患部の広さが限定的なので、普通に薄く延ばして、ティッシュペーパーが少し付く程度に塗っていただくように指導しています。
9.症状や病態に応じてステロイドテープ剤なども治療の選択肢として考える目次へ
掻破によって皮膚がただれているようなときには、通気性のいい絆創膏やガーゼなどで覆います。びらんを生じたところに密封性の高い絆創膏を貼ると、細菌感染を起こすことがあるため注意が必要です。搔き壊しによる伝染性膿痂疹などを防止するために抗菌外用薬の併用も考慮します。
患部を掻き壊さないためにステロイドテープ剤を使用することも有効です。
10.虫刺症の治療は長引いたりくり返すこともある目次へ
以上ご紹介しましたように、患者さんには虫刺されの被害後に速やかに受診していただき、症状に見合ったランクのステロイド外用薬などによる治療を受けていただくことで、ほとんどの場合1~2 週間で軽快します。しかし、ネコノミ刺症やトコジラミ刺症などを契機として痒疹を生じた場合は、治療が長引くことがあります。ステロイド外用薬による治療だけでは症状が軽快しないような場合は、ステロイドテープ剤やステロイドの局所注射、光線療法の併用も考慮します。
トコジラミ刺症は宿泊施設などで一度に多数ヵ所刺されることが多く、改善までに時間がかかります。さらに、痒疹を生じた場合は、半年から数年続くこともあります。
11.駆除、予防を行って再発を防ぐ目次へ
イエダニはネズミに寄生し、夜間ネズミの巣から室内に侵入し、人から吸血します。
イエダニ刺症を生じた場合、患者さんがマンションの高層階にお住いで「絶対にネズミはいない」とおっしゃっても、必ずネズミとの接点があるはずです。たとえ部屋で殺虫剤を燻煙しても、宿主であるネズミが出入りしている限りはイエダニ刺症(図2)をくり返すので、保健所などに相談してネズミの駆除をするように指導します。
ネコノミは土の中に産卵し、成虫になると吸血するため、猫との接触がなくても庭や公園などの土がある所を歩くと刺されることがあります。虫除けスプレーや殺虫剤などで予防することができます。
毛虫皮膚炎では毛虫が発生する6月、9月頃は生息する植物との接触を避けていただき、幼虫が出てくる前の春先に殺虫剤を撒布することをお勧めします。
ハチの場合、虫除けスプレーの効果は少ないようです。ハチに刺された患者様には、予防策として「ハチを見たら、振動や音を立てない」「白い衣服・帽子を着用する」「香料・食品の匂いをさせないようにする」などを記載した注意書をお渡しています。
文献
- 1)大滝倫子:ハチ刺症の症状と治療, 節足動物と皮膚疾患(加納六郎編), 東海大学出版会,東京,1999, p107-117
- 2)夏秋優:節足動物刺咬症.MB Derma 329: 75-81, 2022
- 3)谷口裕子:ハチアレルギーの診断と治療.日皮会誌 121: 2895-2897,2011
- 4)松尾典子,谷口裕子,椛沢未佳子,他:トコジラミ刺症22 例とその対処法. 日皮会誌 125: 1292-1293, 2015