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ケロイド・肥厚性瘢痕治療の基本とちょっとしたコツ

皮膚疾患治療シリーズの情報誌『 To Dermatologist 』をwebコンテンツとしてご紹介していきます。

.ケロイド・肥厚性瘢痕治療の基本的な考え方

ケロイド・肥厚性瘢痕の基礎・臨床研究は近年、飛躍的に進み、今までは原因不明とされてきた事象が明らかにされつつあります。かつて、ケロイド・肥厚性瘢痕は、“治療できない疾患”とも言われていましたが、現在では“治療できる”“完治も不可能ではない”疾患となってきました。

2006 年に発足した「瘢痕・ケロイド治療研究会」では、ケロイド・肥厚性瘢痕の診療に不慣れな先生でも容易にスコア化して診断できることを目的に、2011 年に「Japan Scar Workshop Scar Scale」を作成し、2015 年には第2版(JSW Scar Scale(JSS)2015)を公表しました1)。さらに、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療を専門とする医師だけではなく、一般の形成外科や皮膚科、瘢痕に関心をお持ちのすべての先生にもわかりやすく、適切に治療していただくために、『ケロイド・肥厚性瘢痕 診断・治療指針 2018』(以下、診断・治療指針)を作成しました2,3)。診断・治療指針では、「一般施設」と「専門施設」に分けて、研究会が推奨する治療内容をまとめています。

本稿では、診断・治療指針に基づいたケロイド・肥厚性瘢痕治療の基本的な考え方、一般施設における治療、さらには治療の際の“ちょっとしたコツ”をご紹介します。

.ケロイド・肥厚性瘢痕について知っていただきたいこと

1.ケロイド・肥厚性瘢痕は真皮網状層で持続する炎症が特徴。目次へ

ケロイド・肥厚性瘢痕は、外傷や熱傷、手術などによって生じた創傷の治癒過程での異常が原因で生じる皮膚の線維増殖性疾患であり、真皮網状層で慢性的に持続する炎症が特徴的です。(図1)

ケロイドと肥厚性瘢痕は、臨床的にも組織病理学的にも“似て非なる疾患”と考えられてきましたが、発症要因の大半は両者ともに共通しています。肥厚性瘢痕は、時間経過とともに改善する傾向があり、炎症が軽度で放置していても数年で症状は落ち着き、白い傷痕になります。一方で、遺伝的因子や炎症が強く起こりやすい全身因子などのリスク因子があるとケロイドとなり、容易に自然治癒することはなく、放置することでさらに状態が悪化します。このように、ケロイドか肥厚性瘢痕かは、治療者の便宜上の分類であり、分子生物学的差異は完全には解明されていないのが現状です。

図1.ケロイドの病理組織所見

2.全身因子(高血圧、性ホルモン)と局所因子に注目する。目次へ

ケロイド・肥厚性瘢痕は、遺伝因子と全身因子、すなわち体質と、局所因子のバランスによる複合疾患であると考えられています。

診療においてまず考慮すべきは全身因子です。高血圧や妊娠は重症化のリスク因子であり、血圧変動による血管病変や女性ホルモン(例えばエストロゲンの血管拡張作用)は病勢へ影響を与えると考えられています4)。また、炎症性サイトカインなどの炎症性物質が血中で高濃度になると創傷治癒が遷延しやすくなり、ケロイド・肥厚性瘢痕の発症リスクも高くなります。

局所因子については、治癒までに時間を要するような深い創や大きな創はケロイド・肥厚性瘢痕のリスク因子となります。また、近年注目されているのが皮膚への物理学的な刺激です。ケロイド・肥厚性瘢痕は、張力の強い部位で炎症が継続することで悪化します5)。たとえば、前胸部中央、上皮-肩甲部、恥骨上部や関節部位などのように、日常生活で頻繁に可動する部位では皮膚が牽引され、その刺激が炎症を増強します。

.一般施設におけるケロイド・肥厚性瘢痕診療の実際-診断-

3.JSW Scar Scale(JSS)2015 分類表で15点以下は一般施設で加療できる。目次へ

ケロイド・肥厚性瘢痕の診断は、診断アルゴリズムが基本となります。(図2)

まず、患者さんの病変が、ケロイド・肥厚性瘢痕と外観が類似する良性腫瘍・悪性腫瘍を鑑別します。当然ながら、ケロイド・肥厚性瘢痕と良性腫瘍・悪性腫瘍とでは治療法が異なるので鑑別は重要です。

JSW Scar Scale(JSS)2015は、分類(グレード判定、治療指針決定用)と評価(治療効果判定、経過観察用)で構成されており(図3)、さらに一般施設の先生でも同じ評価を担保できるように、典型的な病変の画像を添付しています。瘢痕・ケロイド治療研究会のホームページからダウンロードできますので、是非ご活用ください1)

JSW Scar Scale(JSS)2015の分類表で、ケロイド的性質が強いか、肥厚性瘢痕的性質が強いかを判断します。分類表には、リスク因子(6項目)と現症(6項目)があり、25点満点でスコアリングされます。たとえば、年齢では0~30歳はケロイド・肥厚性瘢痕の好発年齢であることから2点が加算されますが、61歳以上は皮膚にかかる張力も低く、活動性も低いことから0点としています。そして、点数が高いほど治療が困難であることを示しています。

診断アルゴリズムでは、JSW Scar Scale(JSS)2015の分類表で15点以下の肥厚性瘢痕的性質が強いと思われる場合は、治療に反応する可能性が高いことから一般施設での加療でよいとしていますが、16点以上では治療に抵抗する可能性があることから、専門施設での加療が望ましいとしています。

図2.ケロイド・肥厚性瘢痕の診断アルゴリズム
図3.JSW Scar Scale(JSS)2015(ケロイド・肥厚性瘢痕 分類・評価表)

4.診察の際は患者さんの職業や生活習慣も確認する。目次へ

診断の際に注目すべき患者背景に、先にご紹介した高血圧や女性ホルモンなどの全身因子、局所因子の有無があります。高血圧や糖尿病を合併していないか、妊娠中や思春期であるかどうかを確認することが、治療方針を決定する上で重要です。

局所因子については、患者さんの職業や日常の生活習慣を確認することが必要です。たとえば、農業・林業・漁業や土木・建設業など重労働に就労している患者さんは、いつも身体を動かすことがケロイド・肥厚性瘢痕の悪化因子となります。また、スポーツ選手や日常的な運動習慣がある患者さんも同様に運動をし始めると悪化するというケースがあります。このような患者さんでは、せっかく治療を施しても、日常的に病変部に運動による負荷がかかることで治りは遅くなります。

5.多発性や症状が強い場合は、早めに専門施設に紹介する。目次へ

たとえば、ケロイド・肥厚性瘢痕が身体中に多数あるような患者さんは、体質的な要因がかなり強いため、同様の反応を繰り返して起こしている可能性があり、一般施設での治療は困難です。病変が1ヵ所だけの場合であれば、その部位だけのトラブルの可能性があるので、一般施設で治療を続けていただいてよいと思います。

また、ケロイド・肥厚性瘢痕が非常に大きい場合、強い痛みを伴うような場合など症状が非常に強い場合は一般施設での保存的な治療を継続するよりも、早期から専門施設に紹介していただく方がよいと思います。

文献

  • 1)瘢痕・ケロイド治療研究会 http://www.scar-keloid.com/download.html
  • 2)瘢痕・ケロイド治療研究会 ケロイド・肥厚性瘢痕 診断・治療指針 2018(全日本病院出版会)
  • 3)Ogawa R. Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars-Japan Scar Workshop Consensus Document 2018. Burns Trauma. 2019 Dec 27;7:39. doi:10.1186/s41038-019-0175-y. eCollection 2019.
  • 4)Arima J et al Relationalship between Keloid and Hypertension. J Nippon Med Sch 79 494-5;2012
  • 5)Akaishi S. et al The relationalship between keloid growth pattern and stretching tension:Visual analysis using the finite element method. Ann Plast Surg 60 445-51;2008

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