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ケロイド・肥厚性瘢痕に対してステロイドテープ剤を使用する際の注意点

ケロイド・肥厚性瘢痕に対してステロイドテープ剤を使用する際の注意点について、小川令先生にお話を伺いました。

ケロイド・肥厚性瘢痕に対してステロイドテープ剤を使用する際の注意点

Qステロイドテープ剤を継続貼付する際に注意すべきことを教えてください。

ステロイドテープ剤の継続貼付で触っても病変が判別できないようになるまで改善しても、赤みが残る場合があります。そのような状態でさらにステロイドテープ剤の貼付を続けると皮膚が菲薄化して毛細血管拡張が出現してしまいます。そのようなときはステロイドテープ剤の貼付を中止し、ヘパリン類似物質や非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)などの外用に移行します。
ステロイドテープ剤の貼付で、刺激性接触皮膚炎やアレルギー性接触皮膚炎を生じることがあります。刺激性接触皮膚炎が発生した場合は、ステロイドテープ剤の貼り替えの頻度を減らすことで改善することがあります。たとえば、1日貼って2日は空けてまた貼るというような方法で対処できます。一方でアレルギー性接触皮膚炎を生じると、ステロイドテープ剤は使用できないので、他成分のステロイド軟膏など他の外用剤に切り替えます。
ステロイドテープ剤の添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性に対しては大量又は長期にわたる広範囲の使用を避けること」とあります。ケロイド・肥厚性瘢痕は妊娠中に悪化することから、妊娠前にしっかりと治療し、妊娠中は使用を最小限にとどめるようにします。

Qステロイドテープ剤を貼り替える際の注意点を教えてください。

ステロイドテープ剤を貼り替える際、皮膚が乾燥した状態でテープを勢いよく剥すと皮膚の角質までも剝がれてしまい皮膚にダメージが起こることがあるため、ゆっくりと剝がすようにしていただきます。
私は、お風呂の中でお湯を使ってゆっくりと剝がし、お風呂あがりに新しいステロイドテープ剤を貼付することをお勧めしています。

Q患者さん(ご家族)にはどのように説明されるかを教えてください。

患者さんにはステロイドテープ剤による治療を継続する必要があること、治療に時間がかかること、病変部が軟化・平坦化するまで治療を継続すること、さらに毎日きちんと貼り替えていただくことがケロイド・肥厚性瘢痕を完治に導くためには絶対に必要であることを十分に説明します。なぜなら、ステロイドテープ剤による治療を途中で中止してしまうと、完全に鎮静化していない炎症が再燃してしまうからです。私はいつも写真を見せて「これは長い治療になりますよ」、「1~2年はしっかり貼ってください」と説明しています。
小児の場合はお母さんなどご家族に十分に治療継続の必要性を説明し、確実に毎日貼り替えるようお願いしています。

Qステロイドテープ剤を使用できない病変について教えてください。

ケロイド・肥厚性瘢痕の病変部の拘縮が非常に強い場合はステロイドテープ剤の適応ではなく、外科的治療が第一選択になります。また、患部が感染によって化膿している場合も外科的な処置が必要となるため、ステロイドテープ剤の適応とはなりません。このような場合には専門施設へ紹介していただくことをお勧めします。

Q最後にケロイド・肥厚性瘢痕を治療される先生方へのメッセージをお願いします。

かつて、ケロイド・肥厚性瘢痕は、“治療できない疾患”とも言われていましたが、現在では“治療できる”“完治も不可能ではない”疾患となってきました。そのためには、適切な診断と治療指針が必要となります。2006年に発足した「瘢痕・ケロイド治療研究会」では、ケロイド・肥厚性瘢痕の診療に不慣れな先生でも容易にスコア化して診断できることを目的に、2011年に「Japan Scar Workshop Scar Scale」を作成し、2015年には第2版(JSW Scar Scale 2015)を公表しました3)。さらに、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療を専門とする医師だけではなく、一般の形成外科や皮膚科、瘢痕に関心をお持ちのすべての先生にもわかりやすく、適切に治療していただくために、『ケロイド・肥厚性瘢痕 診断・治療指針 2018』(以下、診断・治療指針)を作成しました1)2)。ケロイド・肥厚性瘢痕で悩んでいながら、苦痛を抱えながらも適切な治療を受けていない患者さんは数多くいらっしゃいます。本疾患は正しい診断と適切な治療法によって、どんなに酷い状態であっても完治できる疾患であり、まずはステロイドテープやステロイドの注射などによる保存的治療を進めていただき、少しでも治療に難渋すると思った場合には早期に専門施設にご紹介いただくことをお願いしたいと思っています。

引用文献

  • 1)瘢痕・ケロイド治療研究会 ケロイド・肥厚性瘢痕 診断・治療指針 2018(全日本病院出版会)
  • 2)Ogawa R. Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars-Japan Scar Workshop Consensus Document 2018. Burns Trauma. 2019 Dec 27;7:39. doi: 10.1186/s41038-019-0175-y. eCollection 2019.
  • 3)瘢痕・ケロイド治療研究会http://www.scar-keloid.com/download.html

日本医科大学大学院医学研究科 形成再建再生医学分野 大学院教授
日本医科大学付属病院 形成外科・再建外科・美容外科 部長

小川 令 先生

ご経歴

  • 1999年 日本医科大学医学部 卒業、日本医科大学形成外科 入局
  • 2005年 日本医科大学大学大学院 修了
  • 2005年 日本医科大学形成外科 助手、会津中央病院形成外科 部長
  • 2006年 日本医科大学形成外科講師、同大学付属病院形成外科 医局長
  • 2007年 米国ハーバード大学ブリガムウィメンズ病院形成外科組織工学・創傷治癒研究室 研究員
  • 2009年 日本医科大学形成外科 准教授、同大学大学院メカノバイオロジー・メカノセラピー研究室主任研究員
  • 2015年 日本医科大学大学院医学研究科 形成再建再生医学分野 大学院教授、同大学付属病院形成外科・再建外科・美容外科 部長
小川 令 先生

【著書】

  • エキスパートが答えるDr.小川の傷や傷あと治療Q&A 南江堂
  • ここまでできる ケロイド・肥厚性瘢痕の予防と治療 日本医事新報社
  • 局所皮弁 克誠堂出版
  • 瘢痕・ケロイドはここまで治せる  克誠堂出版
  • アトラス きずのきれいな治し方 改訂第二版-外傷、褥瘡、足の壊疽からレーザー治療まで 全日本病院出版会
  • Color Atlas of Burn Reconstructive Surgery  Springer社
  • Total Scar Management Springer社
  • ほか

【 関連製品 】

  • “ダイアコート”
  • “ドレニゾンテープ”
  • “ビーソフテン”

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